補聴器プログラミングに関する一考察
福元儀智(中国補聴器センター)、杉原三郎、友森 操(山陰労災耳鼻科)
竹内裕美(鳥取大耳鼻科)
 
[ はじめに ]
近年デジタル技術を用いて小型の補聴器に多種の特性をプログラムできるようになった。
またその技術の応用として入力音の認識と処理を行い、設定されたプログラムを自動選択
し指定された特性としている。その技術はすばらしいものであり、「高音質で自動的に雑
音を除き、良くきこえる」とのうたい文句で期待さらたが、補聴器本来の目的から飛躍し
ていると思われる信号処理もあり、しばしば装用者からの不満に遭遇する。
 今回は、デジタル補聴器の装用者の不満を分析し、補聴器プログラミングに関する考察
を行う。

[ 補聴器装用者の訴えた不満 ]
1,音が不自然にきこえる、自分の声に残響がついたり、ふるえてきこえる
2,静かではあるが、ききたい音がきこえにくい
3,小さな音はきこえるが、大きな音がきこえにくいことがある、力強くききたい
4,いろいろな音の大きさの場面によって、調整できるボリウムを付けて欲しい
5,音の大きさが突然変化したり、変動する
6,ちょっとした調整に補聴器店に行く必要がある

[ 考察 ]
 最近のデジタルアンプは、
1)快適さの向上(不快レベルに近い音や、大きすぎるため生ずる歪の解消)
2)明瞭度の向上(小入力音の子音部強調、雑音・騒音対策)を目指している。
 そのための入力音識別として以下の処理を行っている。
@大小の識別処理:大きい音はゲインを減少・圧縮させ、小さい音は大きく増幅する。そ
の識別境界点ニーポイントは30〜50dBとしているものが多い。
A周波数帯域の識別処理:低、中、高音を3〜10数帯域に細分するものもある。それぞ
れの帯域について、大小の識別処理を行うものもある。
B入射角度の識別処理:指向性マイクと連動させ、入力音角度を識別して横、後方からの
入力音のゲインを減少させる。
C処理時間の短縮:ゲインの減少・回復にかかる時間(アタック、リカバリータイム)を
アナログに比べ格段に短縮。
D入力音の時間的変動の識別処理:入力音の時間的変動の割合を識別し、遅い変化音を雑
音・騒音(N)、早い変化音をことば(S)として区別し、Nが大きい時にはゲインを減
少させるか低音域を減少させる。
 難聴を補正するものとして補聴器はあるが、限りなく正常に近いきこえを回復する機能、
性能であるべきことは言うまでもない。大きい音は不快のない範囲で大きく、小さい音は
小さくきこえることである。そして、よくわかるきこえは快適レベルであり、自然で明瞭
にきこえる音はリニアである。オージオメータから供給される語音、テレビの音量を大き
くしてきく音声、耳元で話す会話などはすべてリニアである。したがって補聴器の役割は
「リニアな音」を「快適なレベル」で聴取することを実現できることであると考える。
 処理時間の短縮を実現した最近のデジタル・ノンリニアアンプはことばの子音−母音の
エネルギー構成を変更し、子音を強調、母音を抑制させている。子音を過度に強調し、言
葉のパターンをも変造して「きき慣れない言葉」を作っており、それでは明瞭さを欠くこ
とにもなる。もし必要であれば子音を周波数帯で認識し、ゆるやかな特性で強調すればよく、
リニアアンプで足りると考える。(⇒装用者の不満、1)
デジタルアンプはその優位な機能を活用してゲインを大きくし、圧縮、AGCを小さな
入力レベルから実現している。このため装用者は不要と思われる小さな音を聴取して感動
する反面、大きいはずである音には物足りなさを訴える。会話レベルである65〜70dBまで
はリニアであるべきで、ニーポイントを会話レベル程度にし、過大音には圧縮を行い、不
快さや歪を防止することが必要と考える。(⇒装用者の不満、2,3,4,5)
ききたい音は会話音ばかりではない。会話音以外でも聞きたい音、きかなければならな
い音がある。特に危険を知らせる音は除去すべきではない。補聴器に入力される音は本来
耳に到達する音である。入力音が言葉であるか雑音であるか、聞きたい音かききたくない
音かは、本人のみがその音を認識した上で決定すべきもので、第3者が決定するものでは
ないと考える。自然界では多方向から多種、多数の音が生じ、人は音の大小、高低を瞬時
に聴取し認識している。現在の自動認識による特性変更は著しく自然さを欠き、ききたい
音、きかなければならない音をもきこえなくしている場合もある。(⇒装用者の不満、5)
 デジタル・ノンリニアアンプの利点は、デジタル機能により過渡歪音がなく、瞬時にゲ
インを変化させることができ、ニーポイントも小さい音圧から自在に設定できる。そのた
めゲインが大きく設定されており、小さい音声は良くきこえ、感度が大きくなって高性能
になったと感じられる。また大きい音もうるさくなく、不快さがないため静かで雑音に悩
まされることが少なくなる。その反面、音声に不自然さが残り、言葉の理解度には大きな
改善がみられない。また大きな音が小さくなって物足りなさがあり、自動調整のための物
足りなさをボリウムの付加で解消したく思われる場合もある。(⇒装用者の不満、4)
 補聴器に要求される性能は、難聴者個々の聴覚的要素に基づき決定される性能と、それ
だけでは満足できない言葉の明瞭さが改善ができる性能の2つであると考えられる。前者
の性能は周波数帯別の増幅度設定と不快にならない出力音圧の制限である。現在これには
ハーフゲインルールにはじまり10法以上の提案があるが、決定的ではないために、フィッ
ティングの正確さが満足されない状態で明瞭度改善の提案があり問題を複雑にしている。
まず適正なフィッティングを行い、騒音下での明瞭さ改善は通信機能技術を駆使して行
うべきで、明瞭度改善はS/N改善のみが有効であろうと演者らは考えている。
演者らは、本学会においてMCL、UCL、を指標とする補聴器フィッティング法1)を報
告した。デジタル・ノンリニアアンプ補聴器もこの考え方によりフィッティングを行うが、
装用者の聴力、希望に応じて使用している。調整としては、ニーポイントを60〜70dBに上
げ、騒音対策として低音抑制の機能を利用している。さらに、必要により異なった周波数
特性を設定し、環境に応じて使い分けができるように、2〜3メモリーを活用している。
(⇒装用者の不満、4,6)
1)福元儀智他:インサートイヤホン・SPLメータによるMCLを指標とした補聴器フィッティング。Audiology Japan 44,95〜100,2001