インサートイヤホン・SPLメータによるMCLを指標とした補聴器フィッティング
福元儀智(中国補聴器センター)、杉原三郎、友森 操(山陰労災病院耳鼻咽喉科)
竹内裕美(鳥取大学医学部耳鼻咽喉科学教室)

 

要旨:近年のボリウムのない補聴器では、補聴器メーカーがコンピュータに内臓させたフィッティング・ルールで初期設定を行うものであるが、各メーカーが推奨しているフィッティング・ルールのレスポンスにはルール間に差があり、実用的ではなかった。MCLにはUCL同様、個人差が存在するため、従来の聴力レベルのみからハーフゲインルールまたはその改良法で周波数毎の利得を求めるフィッティング方法には改善の余地がある。そこで会話に相当するであろう65dBSPLの出力音圧をMCLに、最大出力を示すであろう90dBSPLの出力音圧をUCLになるように補聴器フィッティングを試みた。インサートイヤホン・SPLメータを使用すると、MCLとUCLが即時に決定でき、ボリウムのあるアナログ型補聴器の約96%に、ボリウムのないデジタル型補聴器においても約87%に再調整が不要であった。

キーワード:補聴器フィッティング、快適域値、不快域値、インサートイヤホン、デジタル補聴器

はじめに

近年のボリウムのない補聴器では、補聴器メーカーがコンピュータに内臓させたフィッティング・ルールで初期設定を行うが、それによって示される補聴器特性にはルールによる差がありすぎ、装用者の同意、満足を得るまでに頻回の試聴と再調整が必要で、補聴器ディーラー及び装用者の負担が過重となっている。ボリウムのある補聴器では補聴器装用者が出力をほぼMCLになるように補聴器を使用しているのにもかかわらず、聴力レベルが同等であってもMCLが異なる場合が多く、従来の聴力レベルを指標とするフィッティングでは装用者の満足が得られるまでに頻回の調整が必要である(※1※2)
今回我々は補聴器装用者が出力をほぼMCLになるように補聴器を使用していることに着目した。そこで、インサートイヤホン・SPLメータで求めたMCL、UCLが補聴器の出力音圧と直接対比できることから、補聴器入力65dBSPLの出力音圧が症例個々のMCLに達し、会話がよく聞こえることを目標にしたフィッティングを試みた。この方法により試聴の繰り返しや再調整がほとんど不要となったので、その概要を報告する。

対象

1999年11月から約半年間に著者らの施設を訪れた10〜88歳の軽度、中等度の難聴者187例214耳である。平均聴力レベルは〜40dBが19耳、〜50dBが55耳、〜60dBが64耳、〜70dBが50耳、70dB〜が26耳で、対象者の補聴器は、アナログ型77、プログラマブル型75、フルデジタル型62の計214台である。

方法

1.対象者のうち標準純音聴力検査が可能であった症例において、平均聴力レベルや聴力型にかかわらず、オージオグラム上の1kHzについて、軽度難聴と考えられる40dBHL±5dBと、中等度難聴と考えられる60dBHL±5dBの2つの聴力レベルの、それぞれのMCLを測定した。そして個々の聴力レベルからMCLを予測できるかどうかについて検討した。MCLはインサートイヤホン(EARTONE 3A)をSPLメータ(DANAC 35H)に接続して500Hz〜4kHzのバンドノイズ・断続音を用いて測定した。

2.我々のフィッテイング方法
1)補聴器フィッテングの前には、可能なかぎり基本的な耳鼻咽喉科診察、聴力検査などを行った。

2)MCL、UCLの測定
補聴器フィッテイングに必要な指標として、純音域値、MCL、UCLをインサートイヤホン・SPLメータで測定した。純音域値は250Hz〜4kHzの純音を用いて、MCL、UCLは500Hz〜4kHzのバンドノイズ・断続音を用いて求めた。MCLは「ちょうどききやすい」大きさとし、UCLは「ききたくない」大きさとした。

3)初期設定
求めたMCL、UCLは補聴器出力と直接対比できるので、各周波数の利得を65dBSPL入力の出力音圧がMCLに達するように調整し、最大出力はUCLを超えないように最大出力調整器で調整しながら補聴器特性測定装置で確認した。

4)初回調整と装用開始の判断基準
初期設定した補聴器の評価は、フィールドでの装用域値測定とともに45dBSPLが聴取可能であること、裸耳と補聴器装用での単語の聞き取りテストで改善が認められること、UCLの確認として85dBSPLのバンドノイズ・断続音や交差点での騒音聴取でうるさくないことなどの項目について行った。さらに自声強聴の有無の確認を行い、それらの項目について必要により最終的な微調整の後、装用者の不満がなければ初回調整完了として装用を開始した。

5)補聴器装用後の装用評価
補聴器装用後の全般的な装用評価は、使いやすさ、装着感、きこえ具合などに関して簡単なアンケート用紙で行っているが、装用後から少しでも不満がある場合には、その都度相談を行うように指導した。
3.聴力レベルを用いて補聴器メーカーがコンピュータに内臓させたフィッテイング・ルールで設定された特性と我々の方法での特性を比較し、我々が補聴器フィッテングに必要な指標と考えているMCL、UCLと補聴器メーカーのフィッテイング・ルールの実用性、問題点を検討した。

結果

1.聴力レベルとMCLについて

標準純音聴力検査が可能であった症例のうち、オージオグラム上で1kHzが40dBHL±5dBの症例は13耳であり、60dBHL±5dBの12耳であった。図1にはオージオグラム上で1kHzが40dBHL±5dBの症例1〜13について、左にそれぞれの聴力レベル(HL)を、右にインサートイヤホン・SPLメータで測定したMCL(SPL)を示した。図2には60dBHL±5dBの症例14〜25を同様に示した。聴力レベル40dBHL±5dBの症例のMCLは75〜100dBSPL、聴力レベル60dBHL±5dBの症例のMCLは80〜100dBSPLであった。聴力レベル40dBHLの症例6はMCLが100dBSPLである一方、聴力レベル60dBHLの症例21はMCLが80dBSPLであった。他の症例においても、同様の聴力レベルにもかかわらずMCLには大小が認められた。


2.各補聴器の再調整の回数について

初回調整完了として装用開始後の補聴器の再調整の回数は、ボリウムのあるアナログ補聴器では77耳のうち「衝撃音がひびく」ため最大出力を下げた3耳、3回(3.9%)のみであった。ボリウムのないプログラマブル補聴器では75耳のうち利得を大きくした9耳、小さくした2耳の計11耳、11回(14.7%)、同様にボリウムのないフルデジタル補聴器では62耳のうち利得を大きくした6耳、最大出力を上げた1耳の7耳、7回(11.3%)であった。その他、滲出性中耳炎治療中で聴力変動のため利得を上下調整した1耳(4回)、訴えがよくわからないため利得や周波数特性を調整した1耳(3回)であった。これらの症例の再調整を行った時期は、いずれも補聴器装用後2週間以内であった。滲出性中耳炎治療中の症例と、訴えがよくわからない症例の再調整期間は数ヶ月間であった。再調整の申し出のない症例には3ヶ月以内にハガキや電話による調査を行ったが、再調整の希望はなかった。ここでいう再調整とは、初回調整完了として装用開始以後に行われる音響特性の調整のみであるが、滲出性中耳炎治療中の症例以外の調整幅は軽微であった。


3.我々の方法での特性と、補聴器メーカーのコンピュータ内臓のフィッティング・ルールで設定された特性について70歳女性(右耳:平均聴力レベル57.5dBHL)の症例を示す。図3はそのオージオグラムである。図4にはインサートイヤホン・SPLメータで測定して求めた純音域値、MCL、UCLと、これらに基づき設定したカナル形補聴器の周波数特性(65、90dBSPL入力音圧時)を示した。図5、図6、図7は、この症例の聴力レベルから、現在実際に市販されているD社、SI社、SK社のカナル形補聴器を想定して、それぞれのメーカーのフィッテイング・ルールでコンピュータ画面上に表示された周波数特性である。最大出力を示すであろう高レベル入力音圧と、会話に相当するであろう中レベル入力音圧は、各メーカーによって指定が異なるが、それぞれ80〜90dBSPL、50〜65dBSPLを用いていた。我々の使用している90dBSPL、65dBSPLと一致しない場合には特性そのものの直接比較が困難であるが、我々の使用している入力音圧と一致しているSI社のレスポンスのみを比較しても出力音圧不足と考えられた。さらに、同一症例であるにもかかわらず、同一メーカーのフィッテイング・ルールによって示されたレスポンス間に大きな差が認められた。


考察


補聴器フィッテイングとは装用者の聴覚に基づいて「周波数毎の利得を決定すること」と「周波数毎の最大出力音圧を決定すること」である。補聴器装用者は、1補聴器の最大出力がUCLを越える場合には補聴器を受け入れない、2補聴器に入る信号がMCLになるように利得を調整する、3ほとんどの場合、語音明瞭度が最高になるのはMCL付近であるとSHAPIPO(※3)も指摘するように、著者ら(※4)はMCL、UCLを指標とした補聴器フィッテイングの概要を報告している。またすでに、UCLは聴力レベルからは予測できないことを報告(※5)しており、今回MCLも聴力レベルからは予測できないと考えられた。

従来広く行われている補聴器フィッティングは、聴力レベルからハーフゲインルールまたはその改良法で周波数毎の利得を求める方法である(※6〜8)。アナログ型をはじめとしたボリウムのある補聴器は、MCLに対応する利得を本人が決定できるので、周波数特性とUCLに対応する最大出力音圧の設定のみで対処できる。しかし、近年のボリウムのない補聴器では本人はどの特性も設定できない。したがって補聴器フィッティングでは、迅速にこれらの設定が必要で、UCLはもちろんMCL等の聴覚データに基づいて、利得等の設定をしなければならない。なぜなら聴力レベルが同等であってもMCLには(UCL同様)個人差が存在するためである。

ボリウムのない補聴器では、補聴器メーカーがコンピュータに内臓させたフィッティング・ルールで初期設定を行うものである。しかし、各メーカーが推奨しているフィッティング・ルールのレスポンスにはルール間に差があり、しかも我々の目標とする特性とも大きな差が認められるものがあった。さらに同じルール内において、装用者の経験度によってレスポンスを変化させているフィッティング・ルールも認められた。このことは、それぞれのレスポンスについて試聴、評価調整を繰り返す必要性を予感させるものである。

一般に補聴器の調整は、貸出し・試聴しながら補聴器装用者の快適でない諸々の訴えに基づいて行われているが、MCL、UCLが不明確なままでは補聴器調整のための定量化された指標がないため、装用者の満足が得られる快適さに達せず、頻回の調整作業が続けられていると考えられる。

インサートイヤホン・SPLメータは、1オージオメータ域値音圧と互換性があること、2スポンジ耳せんで音漏れがなく、耳あな形補聴器先端と同等の位置まで外耳道に挿入可能であること、3出力はカプラーで校正でき、補聴器出力と同等であること、4音源は純音、バンドノイズ、マイク音声、外部入力が選択でき、マイク接続では補聴器と同等の機能を持つので、補聴器フィッティングには使用しやすいという利点がある。そのため、インサートイヤホン・SPLメータを使用すると、MCLとUCLが即時に決定できるだけではなく、決定したレベルが妥当であるかどうかマイクロホンを使用して確かめることもできる。

このようにして求めたMCL、UCLに一致するようにコンピュータ上で特性を設定し、補聴器測定器で確認しながら初期設定を行う。初期設定後、実際に補聴器を装用して装用者の聴覚に基づいて初回調整を行う。装用開始の判断基準として、まずフィールドでの装用域値と45dBSPLが聴取可能かどうかのチェックを行う。フィールドでの装用域値45dBSPLは、およそ35dBHLであり難聴者の不自由さが非常に軽微となるレベルと考えて、著者らは装用域値の目標としている。そして単語の聞き取りテスト、UCLの確認として85dBSPLのバンドノイズ・断続音や交差点での騒音聴取などを行う。さらに、自声が快適に聴取されることも重要と考え確認している。このようにして行った最終的な微調整の調整範囲は初期設定の±5dB以内であった。

初回調整完了後、生活環境での使用で問題点があれば、アンケートまたは来店により必要な再調整を行うというシステムをとっている。このような方法で補聴器フィッティングを行った結果、ボリウムのあるアナログ補聴器では装用者が自分でボリウムをMCLに合わせるので、周波数特性と最大出力音圧を決定しておけば再調整が少ないのは当然であり、77耳中74耳、約96%に再調整が不要であった。ボリウムのないプログラマブル補聴器やフルデジタル補聴器においても137耳中119耳、約87%に再調整が不要であった。しかも再調整の必要であった症例においても調整幅は軽微であった。

以上のように著者らの補聴器フィッティング法は聴覚障害者の補聴に、より早く正確に寄与することができ、頻回の補聴器の貸出や試聴、再調整の時間を大幅に短縮するものであると考えた。また補聴器フィッティングにはMCL、UCLという指標が重要であり、特にボリウムのないプログラマブル補聴器やフルデジタル補聴器においては、聴力レベルのみによって補聴器特性を設定する調整方法には改善の余地があると考えた。


まとめ


近年のボリウムを持たない補聴器は、補聴器メーカーがコンピュータに内臓させたフィッティング・ルールで初期設定を行うものであるが、各メーカーが推奨しているフィッティング・ルールのレスポンスにはルール間に差があり、実用的とはいえなかった。MCLにはUCL同様、個人差が存在するため従来の聴力レベルのみを指標とするフィッティングには改善の余地があると考えた。そこで会話に相当するであろう65dBSPLの出力音圧をMCLに、最大出力を示すであろう90dBSPLの出力音圧をUCLになるように補聴器フィッティングを試みた。今回使用したインサートイヤホン・SPLメータの出力は補聴器出力と同等であり、MCLとUCLが即時に決定できるため有用であった。この方法で補聴器フィッティングを行った結果、ボリウムのあるアナログ型補聴器において約96%に、ボリウムのないデジタル型補聴器においても約87%に再調整が不要であった。


参考文献

※1)大氣誠道、岡本途也、杉内智子・他:補聴器両耳装用患者の検討。Audiology Japan36:355-356、1993

※2)大氣誠道、岡本途也、杉内智子・他:当科補聴器外来の現況。Audiology Japan37:403-404、1993

※3)SHAPIRO I :Hearing Aid Fitting by prescription.Audiology 15:163-173、1976

※4)大沢広秀、藤原敏浩、福元儀智・他:MCLを指標とした補聴器フィッティング。Audiology Japan 37:385-386、1994

※5)槇野博規、友森操、杉原三郎・他:補聴器装用耳における不快域値の検討。Audiology Japan28:653-654、1985

※6)Byrne DJ:Gain and frequency response requirements of hearing aids for persons with 
 sensorineural hearing impairments. NAL Report 64、1976

※7)McCandless GA,Lyregaad PE: Prescription of gain and output (POGO)for hearing aids.
 Hear Instruments 34:16-21、1983

※8)Burne DE,Dillon HA:The National Acoustic Laboratories (NAL)new prcedure for selecting
 the gain nad frequency responses of a hearing aid.Ear & Hearting 7:257-265、1986

(原稿受付 平成13.2.20)