ディレイタイムの認識閾値
○硲田猛真1)、中村陽祐1)、福元儀智2)長谷川賢作1)、北野博也1)
1) 鳥取大学医学部感覚運動医学講座耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野
2) 中国補聴器センター

 

[はじめに]
デジタル補聴器ではデジタル信号処理に伴うディレイが必ず存在する。A/D 変換、D/A 変換によるディレイは必須であるが、複雑な信号処理を行うものではさらにサンプリングや、計算時間によるディレイが付加される。
中等度難聴患者では、補聴器を介さない音も聞き取れる為、このディレイによりエコーがかかったように聞こえ、耳に入る音が不自然になる可能性がある。
今回我々は難聴者について、どの程度までのディレイを感じることができるか検討した。

[対象と方法]
対象は鳥取大学附属病院耳鼻咽喉科を受診した難聴者の一部とした。
ディレイ装置には音楽用のディレイ装置であるローランド DD-6 を用いた。DD-6 の D.TIME つまみは微調節を容易にする為外部に引き出し、可変抵抗を外付けした。E.LEVEL は最大、F.BACK は最小、MODEは80mS を用いた。これにより、最大80mS のディレイを外部可変抵抗により調節でき、繰り返しはほぼ1回、ディレイした信号は入力信号と同じ程度の大きさで出力される。外付け可変抵抗のディレイタイム目盛りは補聴器用のディレイタイム測定装置(Frye electronics 社 Fonix 6500)を用いて校正した。出力音はパワーアンプで増幅し、被験者が聞き取りやすい音圧にボリュームを調整した。今回の検討ではオリジナル音は出力させずエフェクト音つまりディレイした音のみを出力させた。最初に 60ms 程度のディレイをかけてエコーがかかるように聞こえることを確認した上で、エコーがかからなくなる最長ディレイタイムを求めた。

[結果]
対象となった症例は12例21耳であった。年齢は17〜82歳、平均50.4歳、男性4例、女性8例であった(表1)。対象の聴力を図1に示す。4分法平均聴力の平均は30.9dBであった。
対象の、他者の声に対する最長ディレイタイムは、4.2〜13.5ms、平均 8.9ms で,自声に対する最長ディレイタイムは、3〜11.5ms、SD 2.6ms であった。全ての症例で他者の声に対する最長ディレイタイムは、自声に対する最長ディレイタイムに比べ同じか長く、p<0.001にて有意であった。
年齢、聴力により最長ディレイタイムに影響があるか検討したが、いずれも明らかな傾向を認めなかった(図2)。
対象を突発性難聴、メニエル病の内耳性難聴6例とそれ以外の難聴の6例に分け、内耳性難聴のうち片側のみの測定となった1例を除く5例で患側、健側の最長ディレイタイムを比較した。内耳性難聴の患側、健側間に最長ディレイタイムの差を認めなかった(表2)。
年齢、聴力による最長ディレイタイムの影響が見られなかったことから、健常者についても最長ディレイタイムを測定した(表2)。患者群と同様に検査者の声に対する最長ディレイタイムは3〜11.5ms、平均7.1ms SD 2.5msで、自声に対する最長ディレイタイムは2.5〜8.6、平均4.8ms、SD 1.6msであった。患者群と対象群で最長ディレイタイムに差があるか検討した。その他の難聴群と対象群について 0.05<p<0.1(t検定)であり、それ以外は有意差を認めなかった。

[考察]
今回の検討では、他者の声と自声で、ディレイを感じる限界の時間が異なることが示された。最長ディレイタイム自声に対してエコーを感じない最長ディレイタイムは3ms程度であり、この程度であれば、ほぼ判別できず、補聴器装用上問題ないと思われた。逆に10ms程度のディレイがあれば、自声については、ほぼ全ての人がエコーを感じることができるため、違和感を感じる可能性があることが示唆された。
内耳性難聴群では健側と患側で最長ディレイタイムに差が見られなかった。このことは、聴覚の時間弁別能は内耳に依存するものではないことを示唆している。時間分解能は年齢との関係も大きいことが示唆されているが、今回は年齢と最長ディレイタイムに明らかな関係を見いだせなかった。しかし、その他難聴群と対象群で自声の最長ディレイタイムがp<0.1であり、この両群では年齢に大きな差があることから、年齢等による後迷路機能の影響が最長ディレイタイムに影響したものと考えられた。

[文献]
1)米本 清:国立身体障害者リハビリテーションセンター研究紀要(0285-1350)10:135-140,1989