高度難聴乳幼児の聴力の観察
槙野博規(山陰労災)・杉原三郎(鳥大耳鼻科)・平松百代・榊原綾子
福元儀智(中国補聴器センター) 友森 操(山陰労災)
 
目的:初診時にきわめて高度の難聴が疑われた乳幼児の聴力が測定可能
となるまでには、医学上、教育上、補聴器装用などの諸要素が関係する。
今回高度難聴(70db SL以上)と判定した乳幼児について、初診時
期、補聴器交付時期、初期聴能教育開始時期、教育効果出現時期、会話
可能時間を調査し、初診時聴力と検査成立時聴力を比較検討した。

対象と方法:対象は昭和53年から56年までに初診した26名である。
聴力検査は年齢に応じて裸耳または補聴器装用での行動聴力検査、標準
純音聴力検査を行い、症例によっては聴性脳幹反応を参考とした。教育
効果出現時間、会話可能時期は問診により決定した。

結果と考察
1. 初診時期は、全症例の27%が1才以内に、50%が1才より2才まで
  に、20%が2才より3才までに、すなわち全症例が山陰労災病院耳鼻
  科、鳥大病院耳鼻科のいずれかを受診していた。
  図1に全症例の経過を示した。
2. 補聴器装用、26例中20例(77%)は2才までに補聴器を交付さ
  れて居り、難聴の程度が80dB未満の症例は3才までに、80dB以上
  の症例は2才4ヶ月までに装用を開始した。
3. 初診より補聴器交付までの期間は25例(86%)で6ヶ月以内で
  あった。しかし交付が遅れた症例でも1年以内に交付されていた。
4. 初診時聴力が80dB以上の症例19例中13例(68%)が2才
  未満で初期聴能教育を開始した。初診時聴力が80dB未満の症例では、
  2才から3才で開始したものが大部分であった。この原因としては保護
  者の難聴児に対する教育に関する認識の不足と、医師の説明指導が不充
  分ではなかったかと反省している。
5. 補聴器を装用して教育開始後、音や言葉に対する反応が、初診時聴
  力80dB以上の症例では、19例中14例(74%)で、同じく80dB
  未満の症例では7例中6例が、6ヶ月前後で出現した。
6. 初診時聴力80dB以上の症例では、簡単は会話が可能となる年齢
  は3才より5才の間に大部分の症例が含まれていた。同じく80dB未満
  の症例では前者と同様の傾向ではあったが、日常生活上の言葉の明瞭度
  にかなりの差があった。
7. 学齢期までに教育を受けなかった2例は言葉の発達が著しく遅れ、
  会話も6才以降になって可能となった。ろう学校での教育指導も個別指
  導が必要であり、学力もつき難い傾向であった。
8. 図2に初診時聴力と検査成立時聴力の経過を示した。
  A群は初診時聴力より検査成立時聴力の方が大きい値を示した群であり、
  B群は初診時聴力より検査成立時聴力の方が小さな値を示したもの、お
  よび同じ値を示した群である。A群では3例がほぼ同じ値と見られ、6
  例は15dB以上の変化がみられた。変化の原因としては
1)初診時判定に問題があったもの
2)経過中に各種の疾病に懼患した、など補聴器装用による音響外傷は、
再診時に全症例にわたって、その出力を観察し制限を厳重に行って居り、
聴力増悪の原因としては考え難い。 B群では、初診時聴力と検査成立聴
力がほぼ同じ値と見られる症例が11例あり、著しく小さな値をしめた
ものが2例あった。初診時スケールアウトであった9例で検査成立時に
測定可能であったものが7例みられた。図2で示された経過と成績から
みて、初診時に判定した聴力と検査成立時の聴力は、大部分の症例で、
ほぼ同じと考えられ、初診時の聴力判定は、まず妥当なものであったと
考えられた。また B群の結果にみられたように、初診時聴力が、たとえ
スケールアウトであっても、早期教育の実施や反復して聴力検査をする
ことで、まもなく確実に聴力を測定することが可能となり、つづいて教
育、補聴器の選択装用に有力な情報を提供することができるものと考えた。