カナル形補聴器の使用経験 その2
槙野博規・杉原三郎・友森操(山陰労災病院耳鼻科)・
福元儀智(中国補聴器センター)
 
< はじめに >
カナル形補聴器の装用が急速に普及しつつあるが、私達の施設でも最近の
2年間に装用を試みたカナル形補聴器の数は209耳であった。通常私達
は補聴器の装用にあたっては、標準純音聴力検査、不快域値の測定とダイ
ナミックレンジの推計、チンパノメトリーを実施し、必要に応じて語音検
査、耳小骨筋反射などを各難聴耳の聴力に応じて測定し、慎重に耳型を採
取した上でメーカーへの製作指示を与えている。しかし、この209耳の
うち66耳に延べ95件の装用時の問題点を経験したのでその内容を検討
し概要を報告する。

集計した問題点を、、特性上のトラブル、構成上のトラブル、装用上のト
ラブルに分類して検討した。

1 特性上のトラブル 9件
補聴器の装用初期に設定した電気音響的特性は補聴の目的に適合したもの
であったが、装用開始後に特性の変化が認められたもので、出力の不足の
状態になったり、周波数特性が変化したり、特性の劣化が認められたもの
であった。原因の詳細は不明であったが、電気回路への湿度、温度の影響
による特性劣化と考えられた。対策としては電気回路の交換で処理した。

2 構造上のトラブル 64件
カナル形補聴器の構造に特有と考えられる故障が多く、導音管、ベント孔
の目づまり、内部ハウリング、電池ボックスの故障、利得調整器の不良、
フェイスプレートの外れなどが頻度の高いトラブルであった。
導音管類の目づまりは主に耳垢に原因したものが延44件であり、補聴器
装用者に原因と対処法を説明することによって大部分の目づまりは再発を
防止できた。最近では導音管類の入口部にフィルターを設置することで悩
みが解決された。10件のイヤシエル内部ハウリングも構造上トラブルの
多いものの1つであるが、シエル内へ近接して各種の小さい構造物を封入
するために発生したトラブルでしばしば再調整、再製作が必要であったが
10件ともに解決し得た。他に電池ボックスの蓋の破損は電池の交換に際
して蓋に力が加わり過ぎて破損したものである。利得調整器の故障も回転
部品が小さく、強く回転させると破損し易いことが原因であった。いずれ
も頻用する部品が小さく操作に困難があることも確かであり、カナル形補
聴器に使用する細かい各部品の品質、ことに強度と操作性について検討改
善の必要があるものと考えられる。

3 装用上のトラブル 13件
外耳道入口部に接触性の皮膚炎を起すのとは別に、装用補聴器のフェイス
プレート上の突起物が耳珠、耳輪脚に接触し疼痛を生じ長時間装用できな
い症例がみられた。また装着すると指で操作が困難な位置角度に利得調整
器が設置されていた例があり、これらは初回のカナル形補聴器の製作時に
は予想されず、実際に耳に装着してみてはじめて判明することを経験した
トラブルであった。補聴器の製作、耳型の採取製作の際には耳介外耳道入
口部の形態を十分に配慮して、あらかじめこのことを指示した上で作製を
行う必要があり、医師と補聴器技術者との協力が密であることの必要性を
痛感した。ほとんどの症例は補聴器シエル形状の変更又は再製作で問題を
解決できた。

4 実用上のトラブル 9件
カナル形補聴器を装用することによって目的とした補聴効果が得られたに
もかかわらず自分の声がひびいてきこえ、補聴器を装用しにくいという症
例がみられた。私達の施設では耳型の採取の際に印象剤を外耳道に挿入し
た時に発声させ(鼻声音など)て、その際に自分の声が強くひびくと訴え
る症例では可能な限り大きなベント管の製作を指示している。しかしハウ
リングを起さない限度で可能な限り太いベント管を製作しても、なお自声
がひびくと訴えカナル形補聴器の構造上、止むを得ないとも考えられたが、
今後補聴器の構造上の問題、装用者(難聴者)の耳科学原因について検討
したいと考えた。

< まとめ >
カナル形補聴器を処方した209耳について追跡調査をしてみると表のよ
うなトラブルが認められたが、66耳の処方に対し延べ95件のトラブル
があったというデータは、私達にとっても困惑の感じを持った成績であっ
た。4の実用上のトラブルを除いて、その大部分は使用者を満足させるま
でに対応することができたが、実用上のトラブルで1例、カナル形補聴器
の装用を断念した例があった。実用上のトラブルの症例では不満足の訴え
が持続している症例があり(自分の声がひびく)対策に苦慮したが、これ
らの症例でも大部分は実際には装用していた。この調査の結果から、カナ
ル形補聴器の処方にあたっては使用知識を十分に装用者に教育する必要の
あること、トラブルの申し出については詳細に聴取し、できるだけ装用者
が満足のいくまでfollow up とafter careが必要であることを強調したい。


表  209耳中、トラブルの生じた66耳の件数
項目 件数 延件数
1 項目上のトラブル 9 9
2 構造上のトラブル 56 64
目づまり 1回 29 29
〃  2回 6 12
〃  3回 1 3
シェル内部ハウジング 10 10
電池ボックス 4 4
利得調整機 3 3
破損等 3 3
3 装用上のトラブル 12 13
シェル変更 1回 11 11
〃 2回 1 2
4 実用上のトラブル 7 9
ベント変更 1回 6 6
〃 3回 1 3
合計 84 95
件数の合計84は66耳のうち2項目以上のトラブルが重複しているものがあったため