当科の乳幼児・小児難聴外来の現況
杉原三郎・槙野博規・友森操(山陰労災)・
福元儀智(中国補聴器センター)
 
( はじめに )
当科の乳幼児・小児難聴外来では現在147名の定期的経過観察を行っ
ている。鳥取、島根両県の症例が中心で、高度難聴が多い。当科では難
聴診断後、補聴器初期設定、音認知訓練、補聴器装用域値・フィールド
裸耳聴力測定、補聴器特性確認、発音チェック・訓練などを行っている。
今回は当地において、乳幼児期、就学前、小中学校の各時期における訓
練、教育の実際と問題点について考察する。また、経過観察中に聴力変
動や悪化をきたした症例や、長期経過観察例の聴力についても検討した
ので報告する。

( 症例 )
1)年齢、性別
男64例、女83例の計147症例で、内訳は3才未満9例(男5、女
4)、3〜6才未満22例(男9、女13)、小学生58例(男25、
女33)、中学生22例(男9、女13)、高校生以上36例(男16、
女20)である。

2)住所
図のように、鳥取県は東部20例、中部6例、西部60例であり、島根
県は東部51例、西部5例、隠岐3例である。その他、山口県、大阪府
がそれぞれ1例である。

3)聴力レベル
良聴耳の聴力レベルは、〜60dB 24例、〜80dB 26例、〜1
00dB 46例、scale out 51例不明(音認知前)1例である。両
耳間の聴力レベル差が30dB以上ある症例は8例のみで、大多数の症例
は左右ほぼ同等の聴力障害であった。
4)聴力型
ほとんどの症例は水平型、低音残聴の高音漸傾型及び高音急墜型で、こ
れら以外のものは皿型9例、低音障害型4例であった。

( 訓練、教育の実際と問題点 )
1)図のように鳥取県には東部(鳥取市)に、島根県には東部(松江市)
と西部(浜田市)にそれぞれ1ヶ所ずつ聾学校がある。就学前3〜6才
の場合、鳥取県西部と中部の一部、島根県東部の症例は主に当科で聴能
訓練を行っているが、可能な症例は松江聾学校教育相談も受けている。
鳥取県東部と中部の一部の症例は主に鳥取聾学校で聴能訓練、教育相談
を受けており、聴力チェックを当科で行っている。3才未満の場合もほ
ぼ同様であるが、通学距離、家庭の事情などにより月1〜2回当科で経
過観察のみ行っている例も少なくない。鳥取・島根両県とも日本海に面
した地域以外は交通の便が悪く、通院・通学に数時間を要する症例もあ
る。難聴児の早期訓練・教育ができる施設の拡充と充実が望まれる。

2)鳥取県の東・中・西部には1ヶ所ずつ、難聴学級をもつ小・中学校
がある。しかし一部を除き、難聴学級通級予定者がなくなったり、授業
についていけず聾学校へ転校し実際には在席者がない状態である。また
難聴学級通級予定者があっても、教員人事や予算の関係で、豊富な経験
を持つ教員が得られないのが現状であり、難聴学級のあり方、意義が問
われるところである。

3)難聴児がほとんどいなかった地域で難聴児が就学時期を迎えた際、
それまでの聴能訓練発音訓練の成果が十分に考慮されず、聴力レベルだ
けで就学先が決定されていまうことが多い。聴能訓練、発音訓練の評価
について教育側との連絡を密にする必要がある。

( 聴力変動や悪化をきたした症例 )
147例のうち補聴器5年以上装用例は116例(そのうち10年以上
は48例)である。年齢が低いため検査のバラツキと考えられるものを
除いて聴力悪化を認めた症例は11例であった(表)。補聴器10年以
上装用例が5例、5年以上が5例、5年以下が1例である。悪化の原因
疾患としては突発性難聴3例、髄膜炎1例、ネフローゼ1例、色素性乾
皮症1例、不明5例であった。原因不明例では補聴器装用期間に関係な
く聴力悪化が認められた。補聴器装用が原因とも考えられるが、両耳補
聴器装用で一側のみ悪化の例もあり詳細不明である。


聴力悪化症例
年齢 補聴器 悪化年齢 悪化耳 原因 その他
5 両耳 3〜 両耳中高音 髄膜炎
8 右耳 4〜 右高音 不明
8 両耳 6〜 両耳高音 ネフローゼ
9 両耳 5〜 両耳全周波 不明 聴力変動、視力障害
10 両耳 ?〜 両耳全周波 不明
11 右耳 8〜 右耳全周波 突発性難聴
15 右耳 14〜 右耳中低音 不明
16 両耳 15〜 左耳中高音 不明 右耳悪化なし
17 両耳 13〜 両耳全周波 両突発性難聴
19 両耳 ?〜 両耳全周波 色素性乾皮症 進行中
26 両耳 19〜 両耳全周波 左突・難、右不明(進行中)